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東京高等裁判所 昭和24年(を)3851号 判決

被告人

早乙女芳市

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於ける未決勾留日数中六十日を原審の本刑に算入する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人山名寿三の控訴趣意を要約すれば被告人と本件窃盗の被害者荻野邦平との間に叔父甥の関係があるか否か、もしその関係があるとしたら本件について、刑法第二百四十四条の親族相盗例が適用せられ、適法な告訴があつたか否かが論点とされている。

先ず被告人と被害者荻野邦平との間の身分関係について考察すると、被告人の父早乙女与三郎は昭和十六年十月右邦平の姉サクと婚姻し、その届出を終つたことが、原審公判調書中の証人早乙女与三郎の供述記載で、明白であるから、昭和二十三年法律第二百六十号による改正前の民法の規定によれば、被告人と右サクとは所論の通り継母子として「親子間に於けると同一の親族関係を生ずる」ものであり、従つて、サクの弟である被害者荻野邦平は、被告人の継母の弟であるから、旧民法の規定の下に於ては叔父甥の関係があつたわけであるが、右のような旧民法第七百二十八条は新民法に於ては削除されてしまつたから、新民法下に於てサクは、被告人の父の配偶者であるに止まり、その間に親子の関係があるわけではない。従つて、荻野邦平と被告人との間の親族関係も新民法の施行と共に消滅したものである。このことは、同法附則第四条の本文に「新法は別段の規定のある場合を除いては新法施行前に生じた事項にもこれを適用する」と規定せられているに徴しても明白である。弁護人は右附則第四条の但書に「旧法及び応急措置法によつて、生じた効力を妨げない」とある点を捉えて一度旧法によつて、発生した効力は新法によつて、変動を受けないで、被告人とサクとの継親子関係が尚継続するものゝように主張するのであるが、右但書はたとえば、継親子関係に基いて相続が開始したような場合に法律が改正されても新法が遡つて適用されないで、旧法によつて生じた物権又は債権上の法律関係をそのまゝ存続させるための規定であつて、親子や戸主というような包括的な地位が旧法通りに維持されることを規定したものではないのである。もし反対にこの但書を所論のように解すれば、但書は第四条本文と抵触矛盾する結果となるのであるから、本文の規定を無視しなければ所論の解釈を導くことは出来ないわけであつて、この理論を実際に適用してみれば、旧法に於て戸主たる地位にあつたものは、新法に於て家が廃止されたに拘らず依然として、戸主の地位を保有するということになり、その不当なことは、いうまでもないところである論旨前段はその理由がない。

従つて、被害者の荻野邦平と被告人が、所論の身分関係がなく、本件窃盗が親告罪でないこと明瞭であるから、本件につき被害者から告訴がなされたか否かの点は審究するまでもなく、論旨後段も理由がない。

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